人気ブログランキング | 話題のタグを見る
病気と医療について考える~栗野的通信
kurino.exblog.jp

ガンで旅だった妻への挽歌と、病気と医療についての考察。
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31
カテゴリ
以前の記事
フォロー中のブログ
LINK
ベンチャー支援組織「リエゾン九州」
「九州の技術」や「九州の頑張る企業」「栗野的視点」などを収録
ジャーナリスト栗野の辛口コラム~栗野的視点
ジャーナリスト、経営コンサルタント、コーディネーターとして活動しながら、中小企業の経営に関する講演も数多くこなす栗野が独自の視点で経済や経営、社会問題を論評
栗野的風景
写真と文で綴るフォトエッセイ。主に花の写真が多い。





最新のトラックバック
その他のジャンル
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧
前立腺がんの手術を決意
 「えっ、手術されますか」
 担当医は身体をのけ反らせて驚いた。
そんなに大げさに驚くか、と思ったが、担当医にしてみれば私の返事が想定外だったようだ。

 この日は7年前から3、4か月に一度のサイクルで行っている定期検査で、いつもは採血と採尿検査だが、半年に一度CT検査が加わり、さらに1、2年に一度MRI検査が加わる。
 主な目的はPSA(前立腺癌の腫瘍マーカー)の数値測定だが、この日は採血、採尿にレントゲン、超音波、MRI検査まで行われた。
 なぜここまで検査をするのかというと、ここ1、2回PSAの数値が急上昇していたからで、いままでのような経過観察ではなく手術とか放射線治療などなんらかの「積極的な治療を」考えるべきだと告げられていた。

 その段階で、自分の中では治療に踏み切る覚悟をしていたし、医師も「いままでのような経過観察ではなく積極的な治療を考えるべきでしょう」と告げたから、てっきり手術日の話になるのかと思っていると「本当はもう一度生検するのがいいんですが、生検は嫌でしょ。細菌に感染するリスクもありますしね」と、こちらの返事を勝手に代弁する。

 私はそれに反対したわけではなく、治療止むなしかなと考えていたが、担当医は治療を積極的に勧めるわけでもなく「本当はもう一度生検するのがいいんですが、生検は嫌でしょ。PSAの数値は他の要因で上がることもありますからね。今までも多少上がったり下がったりしていますから、もう一度検査してみましょう」と、それが私の返事であるかのように自答し、決めてしまった。

 それを聞き、1週間そこら後に再検査になるのだろうと思い「分かりました」と答えた。
 半年前に17.2に上昇したPSAの数値が、その3か月後の検査で21.2に急上昇したのだから、これはもう見守り観察を続けている段階ではない。癌が転移しないうちに手術した方がいいだろうと覚悟を決めた。
 前立腺癌は進行が遅いことで知られているが骨に転移すると手術も出来なくなる。そのために3か月に一度検査し、癌が局所限定に留まり、大きくなっていないか。他の部位に転移していないかを診ているのだ。
 だから再検査と言われた時、検査の正確度を期すため数日か1週間前後にもう一度検査するのだろうと考えた。

「では次の検査は〇月〇日にしましょう」
 その言葉を聞いてこちらが驚いた。
えっ、それって3か月後? それは定期検査のサイクルじゃないか。そんな後で大丈夫なのか。その間に転移したらどうするんだ、と。
 でも、まあ、担当医が言うのだから慌てる必要はないということなのだろうと解釈し、それ以上質問しなかったが、帰宅後パートナーから怒られた。

 本当にそんな先でいいの。先生はどう言ったの。なぜ、もっと聞かなかったの。今度は私も同席する、と。

 そして3か月後の5月某日。朝9時から諸々の検査を受け、おまけに、というのもおかしいが、何かミスがあったようで採血のやり直しまでされ、吸血鬼かお前たちはと心の中で毒づきながら、検査結果が出るまでの1時間余りを院内のコンビニでパンとコーヒーを注文し、どこぞの校長のようにレギュラーサイズにラージサイズの分量を入れることもなく、きっちりレギュラー分量を入れたコーヒーを飲みながら待つのが、検査日のルーティンになっている。

 順番が来て医師の前に座る。
40代後半と思しき担当医はいつものように検査結果報告書を広げながら説明を始めた。

「今回、PSAの数値は16.7でした」
「下がってますね」

 前回よりかなり下がっているどころか半年前の前々回の数値より下がっている。ここまで下がっていれば「積極的な治療」はもう少し後回しにし「しばらく様子を見ることにしましょう」と言うのではと思い、担当医の次の言葉を待った。
「そうなんです。PSAは下がっているんですが」
「が」で言葉を切られた時嫌な予感がした。
 なんだ、なにかあるのか、と。

「癌が少し大きくなっています」
 この言葉は予期していなかっただけに驚いた。PSAの数値は下がっているのに癌は大きくなっている? 普通は癌が大きくなったからPSAの数値が高くなっているではないのか。これって矛盾していないかと思ったが、MRIの検査で癌の大きさが確認できたのだから間違ってはいないだろうと考え「手術します」と答えたら、担当医がビックリしてのけ反ったのだ。

「手術されますか」
 医師は再度、同じ言葉を繰り返した。
「癌が大きくなっているんでしょ。手術しますよ」
「そうですか。手術はお嫌かと思っていましたが」
「いや、先生、私は手術が嫌いなわけではないんですよ。ただ75歳過ぎれば手術をしてもしなくても残りの年数は変わらないというデータが外国で示されているから、手術をしなくてもいいかと考えていただけで。でも、癌が大きくなっているなら手術しますよ」

「手術は先生がされると言われていましたよね。先生、腕はいいんですか」
「名医がよければ紹介しますよ」
「それは誰ですか」
「Q大病院の先生です」
 同じ病院の医師ならそちらにお願いしてもいいという考えがちらっと過ったが、別の病院の医師に、恐らく担当医の恩師ではないかと思うが、転院してまで手術してもらうほどのことではない。

「先生、私に任せてくれ! と言わないんですか」
「いや、普通は言いますよ」
「どうして言ってくれないんですか」
「それは栗野さんが特別だからです」
「そうですか。私は言って欲しかったな。先生と付き合っていて、人柄はいいと思っていましたし」
「人柄とあれは・・・」
「ええ、分かっていますよ。人柄がよくても技術は別だと」
「そうなんですよ」と担当医が応じ2人で笑い合った。
「私は信頼したら全てお任せしますというタイプですから」
「分かりました。私に任せて下さい」
「はい、お願いします」

「手術の場合、前立腺の周囲に勃起神経があり、それを残す方法と広範囲に取り去る方法があります」
「それぞれのデメリットは」
「勃起神経をできるだけ残す方法だと癌細胞に取り残しがあったりし再発するリスクがあります。前立腺の周囲を広めに取り去ると再発リスクは減ります。ただ術後、尿失禁が起こります。ですが大抵の人は1か月ぐらいで治まります。勃起神経を取るとSexはできなくなります。どちらがいいですか」
「う~ん、死刑か終身刑かみたいな話ですね。もうSexはできませんといわれるのと、現実的には同じようなものでも可能性が1%でもあるのとではですね。まあ、Sexの方はもういいです」
「そうですか。ほとんどの人がそう言われますね。中にはできるだけ勃起神経は残してくれと言われる方もいますが。そう言う人は外国人の方に多いですね」
「私の場合は尿漏れの方が嫌なんです。写真を撮りに出かけるのが趣味ですから、尿漏れがあると外出が億劫になり、生活の質が・・・」
「クオリティ・オブ・ライフですね。術後1か月近く続く人もいますが、骨盤底筋を鍛えると早く治ります」

 こんな2人の会話を側で聞いていた看護師が診察室を出た後、今後のことについての説明をしに来て「お二人の会話は漫才を聞いているようでした」と笑っていたが、自分でも掛け合い漫才をしているような感じだった。

「S先生は上手ですから。今日は随分遠慮なさっていましたが、お上手ですから」と、二度も「お上手」と医師をフォローしていた。
 そうだろうと思う。年齢も40代後半。医師として最も脂が乗り切っている時期であり、手術例も多いはずだ。

 というわけで手術をすることが決まったのだが、なぜ手術日が11月と先なのかといえば手術支援ロボット「ダヴィンチ」がその頃まで予約一杯で空かないかららしい。
 「ダヴィンチ」は手術現場に変革を起こしたと言われ、現在国内で570台以上が導入され、前立腺癌で保険適用になったこともあり、前立腺癌手術はほとんど「ダヴィンチ」で行われている。

 前立腺癌の治療法は大きく分けて3つある。1つは手術(開腹、腹腔鏡)で、2つ目が放射線(重粒子線も含む)、3つ目にホルモン治療だ。ホルモン治療は手術も放射線照射も出来ない場合で、最後の手段になる。
 当初、私は治療は重粒子線治療を行いたいと考えていて、医師にもその旨伝えていた。重粒子線を選んだのは当時、最先端の放射線治療で、体への負担が少なかったからだ。
 ただ重粒子線治療施設は少なく、まだ九州にはなく近くでは兵庫県たつの市に施設があったぐらいで、それから程なく佐賀県鳥栖市に、また最近では鹿児島県にも開設されている。
 鳥栖市に施設ができた直後ぐらいにそれまでの先端医療指定が外され保険適用になっているので随分重粒子線治療を受けやすくなった。

 それなのに今回なぜ重粒子線から手術に替えたのかといえば後遺症の問題が分かったからだ。
 きっかけは友人がたつの市の施設で重粒子線治療を行い、術後は実に快調で喜んでいたのだが10数年経って排尿困難になった。常時排尿困難というわけではないが、尿が出にくくなり膀胱に貯まるものだから苦しくて堪らず、何度か救急車で搬送された。
 導尿すれば嘘のようにすっきりするらしいが、どうも重粒子線治療で尿道が少し傷付いていたらしく、その影響が術後10数年後に現れたのだ。

 この話を医師にしたところ、放射線治療のデメリットだと教えてくれたが、最初の説明の時はなかなかそういうデメリットはこちらが尋ねても教えてくれない。長年、同じ医師と付き合っている会話の中で分かったことで、看護師でもこちらから○○という事実があると話すと、そうなんですとデメリットについて答えはするが、こちらに知識がなければ向こうから積極的に教えてくれることはないだろう。

 尿漏れと排尿困難とどちらの方がまだマシか。看護師は私があまりにも尿漏れのことを心配しているからだろう「尿漏れと言ってもだだ漏れになるということではありませんから」と慰めてもくれた。
 後は医師を信じて任せるだけ。といっても手術するのはまだ5か月も先の話だが。


by kurino30 | 2024-07-24 10:22